2007年12月19日

雨にほころぶ初山桜

雨にほころぶ初山桜 咲いた心が知らせたい 



竹刀剣法などと馬鹿にするものもいるが目録まで行けば竹刀だけではなくなる。
竹刀は円柱形だから歯がない。
歯がなければ、叩く動作を覚えても斬る動作までは身につくことがない。
基本的な構えや、動作を竹刀で覚えても、歯を立てることや、突く事などはその先になる。
1年半の剣術修行期間を終えようとする龍馬は昇段試験で木刀まで進んでいた。
木刀には、歯も切っ先もミネもある。
これまでとは違った型などの伝授が必要になる。

もちろん、木刀で終わるわけではない。
木刀の次に今度は歯引きした鉄刀が待っている。
抜刀納刀などは、鞘がないと出来ない。
その次にようやく本身になる。
既に日根野の道場で真剣まで進んでいたものの、1年半では木刀がせいぜいだ。
ようやく基本の動作を覚え、歯を立てる段階に進んだ。

無論、木刀であれば、竹刀より危険度が増す。
当たれば大怪我する事も珍しくないし、時には命を落とす危険性もあった。
また、当たり前だが、竹刀よりもずっと重い。
だから、熱心な者ほど毎朝、木刀を素振りする。
龍馬も既に木刀の重さなどには慣れていた。
既に通っていないような有段者の見守る中、龍馬は昇段試験を受けていた。
もう土佐に帰る。
父に少しでも良い報告をしておきたいのだ。

清河と言う有段者が、次々に型を指定する。
「水鳥!」
「柳!」
かけられる言葉に応じて龍馬は構えを移動する。
型通りの動きはどちらかといえば苦手だが、ここを通らないと次に進むことは出来ない。
「やめ!」

一通りの型稽古、木刀による演舞、竹刀による対戦。
その後、目録者にだけ伝授される技、構えを教わる。
無論、昇段した者だけである。
龍馬はなんとか小目録までを手にする。
1年半の剣術修行としては上出来だと思う。
正座をして師範代に深々と礼をする。
この礼の段階で昇段を取り消された者も過去にはいたという。
剣の道とは、強さだけを求めていないという事が龍馬にはどこかすがすがしかった。

本格的な梅雨がやってくる前に江戸を立つ。
荷物をまとめ、土佐に帰る準備をする。
土産も買っていかなくてはなるまいが、何にしようかなどと考える。
国の父やお乙女あねさんは元気だろうかと考える。
アギは、武市は、長次郎さんは・・・。
きっと黒船の話を聞きたくて仕方がないだろう仲間の顔が浮かんでくる。
準備をしている龍馬に後ろから話しかける男がある。

「きみは土佐だってね」
「・・・あ、清河さん」
「これから西国か・・・大変だなぁ」
「来る事ができましたきに。帰ることもでけるじゃろ」
「坂本君は、なかなか見込みがあるよ。非常に独特の構えだった」
「はぁ、ちゃんと出来ちょらんかったですか」
「いや、そうじゃない。他のものは型から型の移動がピッと早い」
「ふむ」
「だが、君は、すっとこう、自然に型に移っていく。余計な力が入っていない」
「はい。そのほうがええと思うちょります」
「うん。常に相手の打ち込みを想定していたのは君だけだ」
「ありがとうございます」
「僕もね、いずれは行くよ」
「へ?」
「西にさ。九州まで行こうと思う。」
「九州ですかいのぉ」
「時代は変わりつつある。黒船騒ぎでつくづく僕は思った」
「はい。アシもそう思いましたキニ」
「誰もが戦になると思っていたのに幕府はあっけなく降参をした。」
「はい。」
「西じゃまだ何も知らない草莽の志士たちがたくさんいるだろう。遊説するつもりだ。」
「はぁ・・・」
「土佐にも行くかもしれん。その時は手紙を送るから連絡先でも教えてくれ」

開明な山内公を抱える大藩土佐は、どこか若い侍に期待されていた。
最近、こんな誘いが多いのだ。
龍馬はそんな時、どこか自分は何もわからないアホのような顔をするようになっていた。
なんというか、どこかその熱気が気恥ずかしく感じる事があったからだ。

龍馬は千葉先生、家族に別れを告げ、土佐へと旅立つ。
小雨の中、山を見れば、山桜。雨に散りかけている。
花は咲けば散るまでの命。見てもらわなければ花など咲かなかったと同じ事。
大方、清河さんも、自分の考えを人に聞かせたくてしょうがないのだろうなどと思う。
土佐に帰れば帰ったで、黒船について自分の考えなどを聞かれるのかな?とふと思う。
まだ何も考えなどない。
いや。なくはない。
あるのかもしれない。
どこか、ぼんやりとしたものが。
でも、まだ言葉には出来ない。
土佐に帰ればはっきりするのだろうか?
清河さんは、黒船騒ぎから何かを見つけた。
あの吉田寅次郎もそうだった。
自分は鈍感なのかもしれない。

花も咲かせずに散るのかもしれない。



雨にほころぶ初山桜 咲いた心が知らせたい 
posted by 前方公演墳 at 21:06| 東京 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | 龍馬伝説
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