2007年12月18日

世と共にうつれば曇る春の夜を

世と共にうつれば曇る春の夜を 朧月とも人は言うなれ



「つまらんやつらじゃ」

再び黒船が来航する。
品川警備を命じられた土佐藩の命令で龍馬も警備に入っていた。
どの藩の兵も一戦を覚悟している。
上陸するのはどこなのか誰もが見ている。
幕府は、力士に米俵を運ばせたりして、この国を侮るなと見せ付けている。
強引な開国要求を撥ね付けると誰もが思っている。
天皇からの勅許も出ていないのだ。
だとすれば、戦となるのは間違いがないだろう。
一際、警備についている中でも偉そうな態度をとっている連中がいた。
畑本たちの偉そうな態度だけではなく、どうも他藩のようだ。
土佐藩の上役にも何か偉そうな態度をとっているのが目に写る。

「なんじゃぁ、あいつらは」
「紀州だよ」
「ん?」
「徳川御三家って奴さ」
「今度の殿様は紀州から出るっちゅうてたのぉ」
「ほぉじゃ、ほんで、最近、えろうなっちょる」
「それにしても、なんちゃぁ、たまらん」
「ほじゃな。まぁ、政治に勝ったキニ」
「政治??なんの話じゃ?」
「徳川はわれちょる。紀州派と一橋派にわかれちょっての。」
「ほぉ。」
「どうやら、紀州派が勝ったようじゃ」
「外国が攻めてくるッちゅう時に内輪もめしちょったがか・・・」
「ほうじゃ。まったくアホばかりじゃ」
「ん?」
「なんじゃ?」
「なんでおまさん、そんな事までしっちょる??」
「一応、アシも幕臣じゃき。」
「何をいいゆう。土佐弁丸出しじゃぁないかよ。」
「本当じゃ」
「ん?」
「なんじゃ??」
「おまさん・・・誰じゃね??」
「ア・・・アシを知らんのかよ??」

知るも知らないも幕臣に知り合いなどいない。
それともよっぽど有名な人なんだろうか??

「アシは剣術に夢中ですき、何もよう知らん。すまんのぉ・・・」
「アシは、中浜万次郎ゆうもんじゃ。ジョン・万次郎のが有名じゃがの」
「ちゃ!おお!しっちょる!アシが江戸にくる一年前になんちゃ変な格好して歩いちょった」
「ほうじゃ。パレイドをしたんじゃ。ありゃあ、カウボイの服じゃ」
「なんじゃ、まげなんぞ結っちょると、やっぱ土佐者じゃのぉ」

土佐の猟師たちが漂流し、アメリカの捕鯨船に救出された。
最年少だった万次郎少年は、アメリカ本土に渡り、砂金を掘り、その金で日本まで戻ってきたという。
鎖国を破った重罪で死罪も検討されたが、最近の異国船や外国情報もありまぬがれる。
開明的な土佐藩主山内容堂公は猟師という低い身分から武士に取り立てたのだという。
山内公はアメリカの事情を本に書かせ出版し他藩にも自慢をしたそうだ。
結果的に、先の黒船騒ぎで幕臣に取り立てられ、中浜姓を与えられたのだという。

「ん?じゃが、万次郎さんは通訳じゃち、聞いてたぞい」
「それがの、紀州なんじゃ」
「なんじゃ?紀州??」
「どうもアシの事をアメリカの密偵じゃいうもんがあらわれてのぉ。お役ご免ちゅうわけじゃ」
「じゃが、アメリカの言葉をたくさん話せるほうがええじゃろ」
「もう、ええんじゃと」
「どういうことじゃ?」
「これはまだ言うたらいけんぜよ」
「なんじゃ?」
「紀州派はアメリカと条約を結ぶ。開国に踏み切るそうじゃ。」
「な・・・」
「あの紀州の連中は戦にならんのを知っちょってえらぶっちょるのよ。」
「じゃが・・・そんな・・・」
「幕府なんちゅーても、幕をひっくり返せば色々おるんじゃ」

万次郎は何時の間にか名も知らぬ若者に次々と話をしてしまう。
秘密を守るであろう誠実な顔だけじゃなく、いちいち大きく反応してくれる。
どうにも、人から話を聞きだす能力があるとしか思えない男が不思議だった。

「じゃがの。アシは開国はええ思うちょるよ。
 アメリカと今、戦しても、勝てん。
 まぁ、アメリカも陸軍を日本まで運ぶ余力はないじゃろうし、船だけじゃ占領はでけん。
 内戦をしちょるからの。本当はギリギリなはずじゃ。
 じゃが、もう開国せにゃならんよ。黒船一つでここまでこん国は大騒ぎじゃ
 ほじゃったら、アメリカのええ所をこの機会に学べばいいんじゃ
 じゃが、心配じゃのぉ。どんな条約になるんか。
 幕府のもんは、なんだか、よぉ顔が見えん。ふわふわしちゅう。おぼろじゃ。
 政治闘争ばかりで自分の保身ばかりじゃ。殿様同志で話しおうてほんにええのか。
 どうなるかのぉ・・・。
 アメリカは随分、違ったぜよ。民衆がもっと自由にしちょった。
 つまらんやつらじゃ。自分さえ良ければええような馬鹿ばかりじゃ」

安政元年3月3日。
日本は日米通商条約を結ぶ。
それは不平等な条約だった。
ここから、インフレが起きて、民衆は苦労するようになる。
全ては開国をしたからだと、幕府に非難が集中していくのだ。
開国に反対だった朝廷の下に草莽の志士たちが集まる土壌を幕府は自ら築いた。
それは、この条約の内容一つでいくらでも変わった事だ。
通訳が万次郎だったら変わっていたのかもしれない。

龍馬の修行期間も残りわずかとなっていた。
折角の春の夜なのに。
雲が出ている。
戦をするといきまいていたあの若い武士たちの思いはどこにいくのだろう?
これからこの国に何が起きるのだろう?
雲に隠れる空に龍馬は思う。


世と共にうつれば曇る春の夜を 朧月とも人は言うなれ
posted by 前方公演墳 at 16:30| 東京 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | 龍馬伝説